フィジーの3大宗教〜それぞれの特徴とマナーについて〜
皆さんはフィジーの宗教を知っていますか?
フィジーには、フィジー系民族のほかにインド系民族も暮らしているため、民族によって異なる宗教を信仰しています。
日本では、特定の宗教を信仰しない「無宗教」の人が多いですが、フィジーではキリスト教・ヒンドゥー教・イスラム教の順に信者数が多いです。
では、フィジーの宗教の実態はどのようなものなのでしょうか?また、私たち日本人が気をつけるべきマナーはあるのでしょうか?
今回は日本人にとってあまり身近でない「宗教」についてご紹介します!
目次
フィジーの宗教別人口
まずはフィジーの宗教別人口についてです。外務省の発表によると、フィジーの人口は約89万人。そのうちの半分を超える52.9%はキリスト教徒です。
次いで、人口の38.2%はヒンドゥー教徒、7.8%はイスラム教徒です。
また、フィジーには先住民として古くから定住していたフィジー系民族(総人口の57%)とイギリス植民地時代にプランテーション労働者としてインドから移住してきたインド系民族(総人口の38%)の主に2つの民族が存在し、フィジー系民族のほとんどはキリスト教信者、インド系民族の約80%はヒンドゥー教、約20%はイスラム教を信仰しています。
では、それぞれの宗教の特徴はどのようなものなのでしょうか?
今回は、キリスト教・ヒンドゥー教・イスラム教それぞれの宗教の特徴と日本人が気をつけるべきマナーについてご紹介します。
キリスト教
まずは、フィジーの宗教別人口でも一番多いキリスト教についてです。
キリスト教には主にカトリックとプロテスタントの2つの教派がありますが、フィジーのキリスト教はプロテスタントが主流です。
ちなみに、2つの教派の違いを簡単に説明すると、神の次に教会を重視するか聖書を重視するかということです。
具体的にいうと、どちらの教派も最も信じるべき存在は神様なのですが、カトリックは神様の次に教会を重要視しているのに対し、プロテスタントは聖書を重要視しています。
そのため、カトリックの教会は一般に天井が高くステンドグラスなどの豪華な装飾が施されているのに対し、プロテスタントの教会は比較的シンプルな内装です。
(写真はNasoso村にあるローカルな教会。)
特徴
キリスト教は一神教の宗教のため、神様はイエス・キリスト1人しかいないと信じられています。また、キリスト教の中でもカトリックは偶像崇拝を認めているのに対し、プロテスタントは認めていません。そのため、カトリックの十字架にはイエス・キリストが磔られているのに対し、プロテスタントの十字架にはキリスト像はありません。(…ということは、上の写真の教会がどちらの教派なのかお分かりですね!)
さらに、プロテスタントには、毎週日曜日に礼拝と呼ばれる儀式(カトリックでは「ミサ」と呼ばれる儀式)があり、多くの教会では朝から牧師(カトリックでは「神父」)による聖書朗読や説教がなされます。先ほど述べたように、プロテスタントは聖書を重要視する教派のため、カトリックよりも聖書朗読やそれに関する説教の時間が長いとされています。また、キリスト教系のホームステイ先では、朝のお祈りから1日が始まります。ちなみに、フィジーには「フィジータイム」と呼ばれる時間にルーズな慣習がありますが、礼拝などの宗教上の規律はきちんと守る人が多いです。
行事
キリスト教の主要行事としては、世界的にも有名なクリスマスがありますよね!クリスマスは英語で [Christmas] と書くようにキリスト [Christ] の誕生を祝う日で、キリスト教では12月1日頃からクリスマスイブまでの「アドベント」という期間(クリスマスまでの準備・カウントダウン期間のようなもの)があります。
また、クリスマス以外にもイースターというキリストの復活を祝うイベントも存在します。イースターでは、キリストの復活(=再誕)を象徴したたまごをペイントして装飾したり神への捧げ物として使われていた羊を使った料理を食べたりします。日本では、キリスト教といえばクリスマスというイメージが強いかも知れませんが、キリスト教信者にとっては復活祭であるイースターの方が重要なのです。
マナー
キリスト教に関するマナーについても紹介します。キリスト教にはあまり厳しいルールはありませんが、教会に入るときは露出の少ない服装で帽子を取るのが最低限のマナーです。また、キリスト教では離婚と中絶が禁止されているため、それらについての話題を振ることは親しい仲でもおすすめしません。
キリスト教の教会は、基本的には信者でなくても入ることができます。実際に礼拝に参加してみたいという方は、マナーを守った上で参加してみてはいかがですか?
ヒンドゥー教
続いては、フィジーで2番目に信者が多いヒンドゥー教についてです。日本ではあまり馴染みのないヒンドゥー教ですが、その歴史は古く、4世紀頃にインドの民衆に定着した宗教と言われています。
ヒンドゥー教にはヴィシュヌ派・シヴァ派・ブラフマー派など様々な宗派がありますが、フィジーではヴィシュヌ派がメジャーです。ちなみにこれらの宗派の違いを簡単に説明すると、誰を最高神とするかどうかの違いです。
例えば、フィジーで主流のヴィシュヌ派という宗派では、世界維持の神であるヴィシュヌを最高神として信仰しています。
(写真はNadiにあるスリ・ジヴァ・スブラマニア寺院。)
特徴
ヒンドゥー教は仏教や神道と同じ多神教のため、唯一神信仰ではなく複数の神々の存在を信じています。そのため、先ほども説明したように、宗派によって誰を最高神とするかが違いますが、それぞれの神々の存在を認め合っているので、基本的には宗派同士で争うということはありません。
ヒンドゥー教では、曜日ごとに祈りを捧げる神様が異なります。例えば、火曜日は「ハヌマーン」という猿の神様への祈りを込めて、肉類を一切口にしません。そのため、ヒンドゥー教の本場インドでは、火曜日に学校やレストランが定休になることも多いです。ちなみに、このハヌマーンという神様は、諸説ありますが、西遊記に登場する孫悟空のモデルにもなったとか。
また、ヒンドゥー教では、仏教と同じように寺院へ参拝することもあり、寺院の中には、お寺の前で売っている花などの御供物を持って裸足で入ります。寺院はヒンドゥー教徒にとって神聖な場所のため、ノースリーブや半ズボンは禁止されているほか、寺院内部の撮影も禁止されている場合が多いです。
行事
ヒンドゥー教の行事の中で有名なのが光のお祭り「ディワーリー」です。ディワーリーは、美・豊かさ・幸運の女神である「ラクシュミー」をお祝いする日で、インド暦のお正月にあたります。ディワーリーは光のお祭りということもあって、6日間のお祭り期間中は、イルミネーションや花火などで町中がキラキラと輝きます。
また、ヒンドゥー教の年中行事でディワーリーと同じくらい重要なのが「ホーリー」というお祭りで春分の日の最初の満月に行われます。このお祭りは悪魔払いのために泥などを投げつけたのが起源とされていますが、現在ではカラフルな色粉を投げつけ合います。また、ヒンドゥー教には「カースト制度」と呼ばれる身分制度がありました(現在では禁止となっています)が、お祭りの最中は無礼講が許されるため、ホーリー中は誰もが平等に思いっきり楽しむことができるのです。
マナー
ヒンドゥー教では、牛は神に仕える動物とされているため、牛肉を食べることや牛革製品の使用は禁止されています。また、先ほど火曜日は肉類禁止と紹介しましたが、火曜日だけでなくいつでも肉類を食べない菜食主義の人も多いです。人によって厳格さは異なりますが、ヒンドゥー教では動物の殺生は良くないこととされており、中には卵や乳製品も食べないという人もいます。さらに、ヒンドゥー教では左手は不浄の手とされているため、ご飯を食べるときや握手をするときなどは基本的に右手しか使いません。左手の他にも、足も不浄とされているので、万が一他人に足が当たってしまった場合は一言謝ることをおすすめします。その他、ヒンドゥー教では汚れたものを家の中に入れてはいけないというルールがあります。そのため、ゴミや血のついたもの(生理用品など)は外に出さなければならないので注意が必要です。
キリスト教の教会と同じくヒンドゥー教の寺院も一般の人でも入ることができます。また、フィジーでもディワーリーなどのヒンドゥー教のイベントに参加できる機会があります。特に、ホームステイ先がインド系の家庭なのであれば、ホストファミリーと一緒に行ってみてはいかがですか?
イスラム教
最後に、フィジーで3番目に信者が多いイスラム教についてです。
イスラム教には主にスンニ派とシーア派という宗派がありますが、フィジーではスンニ派が主流です。
ちなみに、2つの宗派の違いを簡単に説明すると、イスラム教の創始者である預言者ムハンマドの後継者争いにおける考え方が違うということです。
具体的には、スンニ派は歴史上の後継者争いにおいて実力を重視したのに対し、シーア派は血統を重視しました。
また、イスラム教の中でもスンニ派は比較的柔軟な考え方をするのに対し、シーア派はコーランに厳格に従うという違いもあります。
(写真はLautokaにあるサウェニ・モスク。)
特徴
イスラム教はキリスト教と同じ一神教の宗教のため、唯一神アッラーのみを神として崇めます。また、フィジーで主流のスンニ派は偶像崇拝を禁止しているため(シーア派は禁止していません)、神の絵画や像は存在しません。
また、スンニ派には早朝から夜までの間に1日5回(シーア派の場合は3回)家の中や会社のお祈り専用ルームでメッカの方向を向いて礼拝をする習慣があります。「メッカの方向なんてどうやってわかるの?」と思うかも知れませんが、インドネシアなどのイスラム教が主流の国ではホテルなどの1室1室にメッカの方向を示す矢印が貼られています。ただし、フィジーではイスラム教は少数派なのであまり見かけません。
そのほか、金曜礼拝という金曜の正午に行う礼拝があります。この礼拝は毎日の礼拝と異なり、モスクに集って祈りを捧げます。
行事
イスラム教の行事として有名なのは断食月「ラマダン」です。イスラム教では現在の暦とは異なる「ヒジュラ暦」という暦を採用しているので年によって異なりますが、ラマダンの時期はヒジュラ暦の第9月と定められています。ラマダン中は日の出から日没までの間、食べ物を口にしてはいけません。ですが、ラマダン中にムスリムの家庭にホームステイすることになっても、滞在者の分のご飯は作ってくれるので心配はいりません!
また、ラマダン明けの3日間は「イード・アル=フィトル」という断食が無事に終了したことを祝う宴が行われます。ムスリムの人たちにとってこの期間は、新しい服を買ったり家でお菓子パーティをしたりと、いわば、ご褒美期間のようなものなのです。
そのほか、ムハンマド生誕祭という、イスラム教版のクリスマスがスンニ派ではヒジュラ暦の第3月12日(シーア派では17日)に取り行われます。(詳しくはコチラ)
マナー
最後に、イスラム教のマナーについてです。イスラム教ではヒンドゥー教と同じく左手は不浄の手とされているため、ご飯を食べるときや握手をするときは必ず右手を使わなければなりません。また、イスラム教ではお酒と豚肉は「ハラーム」といって食べることを禁止されています。ちなみに、酒や豚肉を含まない食べ物を「ハラール」といいます。
さらに、イスラム教では男女の接触も禁止されています。そのため、祈りの場が男女で分かれているほか、男性がムスリムの女性をじろじろと見たり、握手したりということはマナー違反になります。そのほか、男女ともに膝から上を見せることはタブーであり、女性はお祈りの際に「ヒジャブ」というベールのようなもので髪の毛を隠さなければなりません。
このように、イスラム教には日常的な作法やタブーがいくつかあります。ムスリムのホームステイ先では信者でなくても半ズボンはダメという家庭があるので、渡航前に最低限のマナーは知っておきましょう!また、イスラム教徒でなくてもモスクへ入ることはできますが、上記の服装に関するマナーを守らないと基本的に入室できません。気をつけましょう!
「無宗教」は少数派
ここまで、フィジーの主要な宗教としてキリスト教・ヒンドゥー教・イスラム教について紹介しました。日本では何の宗教も信じない「無宗教」を名乗る人が多いですが、フィジーをはじめ、海外では何らかの宗教を信仰することが一般的なため、無宗教の人はほとんどいません。
宗教を強要することは好ましくないのですが、何かを信仰している人の前で「何の宗教も信じていない」と言うのも失礼です。
特に、“I don’t believe in God.” と言うとその人の宗教における神の存在を全否定することになりかねません。
親しくなった人に「あなたの宗教は何ですか?」と聞かれた際には、“I’m not a very religious person.(私はそんなに信心深い人間ではありません。)
” または “I believe in both Buddhism and Shintoism.(私は仏教と神道の両方を信じています。)” などと答えるのが良いでしょう。
日本の宗教について説明することで英語を話すトレーニングにもなりますね!
まとめ
いかがでしたか? 日本人には馴染みのない「宗教」ですが、フィジーには複数の宗教が混在しています。
渡航前にそれぞれの宗教についての最低限の知識を知り、ホストファミリーや現地住民に失礼のない言動を心がけましょう!
参考
「プロテスタントとカトリックの違いとその歴史・国別の割合」
「日本人が知らないイスラム教の行事あれこれ『ラマダーン=断食』ではないよ」
「Lord Vishnu’s Religious Significance in Vaishnavism」
「インド三大祭りの『ホーリー』でカラフルにヒンドゥー教文化を体験しよう!」